資料
請求

変革の時代に地方銀行を支え伴走する使命

2024.02.26

文学部 卒業生

緒形 奈津美

221205-1029.jpg

緒形 奈津美
OGATA Natsumi
一般社団法人全国地方銀行協会 研修事業部

2013年度 文学部フランス語圏文化学科卒業


私×学習院大学

「本当の自分」に出会えた場所

学習院大学の良さは、森の中にいるような居心地のいい落ち着いたキャンパスと、穏やかな人が多いことだと思います。その雰囲気が私にはとても合っていて、「自分はこうでなきゃいけない」という思い込みから解放され、4年間、自由に伸び伸びと過ごすことができました。言わば、無理をしていない「本当の自分」に出会えた場所。心から楽しい学生生活でしたし、今思い返しても「いい大学だったな」と思います。

 人口減少や少子高齢化など、さまざまな問題を抱える地域社会。その活性化に向けて重要な役割を担うのが、各地方や都道府県を営業基盤とする地方銀行(地銀)だ。地域に密着した金融サービスを提供し、地元企業や住民の生活を支え、地域経済をリードする――。
 緒形奈津美さんが働く全国地方銀行協会は、そんな「地方創生」の鍵を握る地方銀行の活動を多岐にわたりサポートしている。

 「一般的にはイメージしづらいかもしれませんが、幅広い業務を手掛けているんです」と笑みを浮かべる緒形さんは、文学部フランス語圏文化学科を卒業後、千葉県に拠点を置く京葉銀行に入行。5年間営業職として勤務した後、その経験を生かして全国地方銀行協会へ転職した。

 「全国に62行ある地方銀行が、当協会の会員です。コロナ禍や急速な円安の進行により不安定な経済情勢が続き、DXやESG経営※2 の必要性も叫ばれる中で、地銀は大きな変革を迫られています。そうした変化の波に柔軟に対応するため、伴走し、支えるのが私たちの役割です」

 金融政策に関する地銀界の意見をとりまとめて政府へ提言する、経済の動向や新たな金融商品について調査・研究を行うなど、あらゆる形で会員銀行をバックアップしている全国地方銀行協会。緒形さんが現在所属するのは研修事業部で、会員銀行の行員向けに、ノウハウ共有や自己啓発を目的とした多彩な研修を企画している。

 「テーマの考案から講師の選定、当日の運営まで、全てのプロセスを担当しています。私自身が以前銀行員だったから分かるのですが、現場では目の前の仕事に忙殺されて、つい情報収集やインプットがなおざりになりがち。その部分をフォローできるよう、少しでも役立つ内容をお届けしたいと考えています」

 開催頻度は「ほぼ毎週」だといい、常に複数の企画を同時並行で動かす多忙な毎日を送る。更に、一口に研修といっても、その中身はさまざまだ。
 「『役員向け』『中堅行員向け』『女性管理職向け』といった対象者別のほか、『信用リスク』『海外展開支援』など専門分野別の研修もあります。テーマも多様で、最近は『DX』や『サステナビリティ』、『人的資本の可視化』などの題材が多いですね」

 こうしたテーマを考え、実際の現場に生かせる研修内容に練り上げるには、地方銀行が置かれている状況の一手先を読み、銀行員のニーズを的確に把握しなければならない。金融から法律まで広範な知識が求められるが、「だからこそやりがいがある」と緒形さんは力を込める。

 「情報をキャッチアップし続けるのは大変ですが、日々新たな学びがあるので面白くて。現在は、若手行員が通勤時などに気軽に見ることができる研修動画も制作しており、構成や編集のノウハウも勉強中です」

 もともと千葉で生まれ育った緒形さんは、緑に包まれたキャンパスの雰囲気にひかれ、学習院大学の門をくぐった。「好奇心旺盛なタイプなので、新しいことに挑戦しよう」と文学部フランス語圏文化学科を選択。実際に、入学後は初めて触れる言語や文化に魅了されたという。

 「フランス語だけでなく、文化や歴史も幅広く学べて楽しかったですね。映画や漫画、建築など、ユニークな授業がたくさんあって。それまで知らなかった世界に触れた経験は、私の視野を広げ、人生を豊かにしてくれました」

 課外活動は、テニスサークルと陶芸研究会に所属。学部や年次を越えて、多くの友人や先輩・後輩と交流を深めた。
 「当時から人と話すこと、関わることが大好き。常にコミュニケーションを大事にしていたからか、サークル内では新入生の対応や合宿の企画運営など、対人スキルが求められる役割を任されることが多かったように思います」

 「卒業後は千葉に戻ろう」と考えていたこと、母が金融機関に勤めていて自分の働く姿が想像しやすかったことから、就職活動では地方銀行を志望。2014年、京葉銀行に入行する。
 「担当は、個人向けに金融商品を販売するリテール営業。人と関わる仕事がしたかったので営業に抵抗はなく、むしろ好きでした」と振り返る緒形さん。営業成績もトップクラスで順風満帆な銀行員生活を送っていたが、次第に持ち前の好奇心が頭をもたげるようになる。

 「本来いろんなことにチャレンジしたい性格なので、『もっと幅広い知識を身に着けたい』『営業以外の業務も経験したい』という思いが湧いてきたんです」

更に緒形さんの背中を押したのは、5年間身を置いた地方銀行への思いだった。
 「自分が育った地元に貢献できている実感があり、地銀の社会的意義を強く感じていました。だからこそ、この先10年、20年同じように仕事をするなら、一人の銀行員としてではなく、広く地銀全体の発展に力を尽くしたい......と考えはじめて」
 自分が更に成長できる仕事、そして地方銀行全体に影響を与えられる仕事がしたい――。これら全ての条件を満たす次なる挑戦の場、それが全国地方銀行協会だった。

 こうして大学時代を過ごした東京に戻り、新たな一歩を踏み出した緒形さん。最初に配属されたのは、地方銀行の「実務」を支える業務部だった。
 「金融に関する法律等が改正された場合、各銀行ではどのような対応が必要なのか。金融庁や法務省に意見を提出したり、共に協議したりしながら、対応策をまとめて会員銀行に周知するのが主な業務でした」

 「政府と地銀界との橋渡し」とも言うべき影響力のある仕事。接するのは、各省庁の人々や銀行の役員クラスといったそうそうたる顔ぶれ。当然やりがいは大きかったが、「その分焦りもあった」と緒形さんは続ける。
 「会合で説明する機会が多かったのですが、銀行員時代は大勢の前で話す、会議資料をつくるといった経験がほとんどなかったので、必死で勉強しましたね」

 同じく大変だったのが、部署を問わず課せられるレポート執筆。これは複数の銀行を取材して先進的な取り組みを紹介するもので、全国の銀行員はもちろん各銀行の頭取も目を通すため、鋭い着眼点と分析力が求められる。

 「情報収集のため、新聞や金融雑誌を逐一チェックしています。いまだに毎回苦戦しますが、『レポートを見て、実際に新サービスを立ち上げました』という連絡をいただくことも。苦労して良かったと思う瞬間ですね」

 そして、2022年6月に現在の研修事業部へ。研修の種類が豊富で、必要な知識の幅が広いがゆえに、「力不足を痛感する場面もまだまだ多い」と話す緒形さん。その代わり、大事にしているのはコミュニケーション。協会内外の人々と積極的に関係を築き、情報を足で稼いでいる。

 「日々いろんな所でコミュニケーションをとっておくと、企画のヒントになる情報が自然と入ってくるんです。ほかにも、『こんなテーマに興味ありますか?』と会員銀行の方の反応を探ってみることもありますし、毎回の研修終了後には受講者に直接感想を聞いて今後の参考にしています」
 「知識が追い付いていない分、そういう部分でカバーしないと」とほほ笑む緒形さん。人が好きで、コミュニケーションが好き。その姿勢は、大学の頃から一貫している。

 「モットーは『どうせやるなら楽しく』。楽しみながらたくさんの人と関わって、それを仕事につなげたいですね」

 多忙な毎日を送る緒形さんの息抜きは、学生時代から続けているテニス。社会人サークルに所属しているほか、大学のテニスサークルの友人とコートに立つこともある。「月に2~3回は行きますね。誰かと喋っている方がストレス解消できるタイプなので、人に会うのが目的でもあるんですけど」コロナ禍の前は、年1回の海外旅行を欠かさなかったという旅行好きの一面も。
 「今は専ら国内旅行です。あと、最近はゴルフもはじめました。まだまだ下手なんですが(笑)」
 陶芸研究会の友人や、ゼミの先生・友人ともいまだにご飯へ行く仲で、「母校愛は強い方かも」。その言葉を裏付けるかのように、学習院大学の「面接対策セミナー」、通称「メンタイ」の講師を卒業後から毎年務めている。

 「メンタイは、OB・OGが講師となって、就職活動に向けた模擬面接やグループディスカッションの練習などを行うイベント。少しでも後輩たちの役に立てたらと思い、毎年参加しています」

 そんな緒形さんに今後の目標を聞くと、「まずは現在の部署で力をつけることですが、その後は違う部署も経験してみたいですね。メンタイの体験を生かして、採用にも関われたら」と目を輝かせる。更に、その先に見据えるのは、地方銀行、そして地域社会の未来の姿だ。

 「地銀再編によって銀行の数が減っていく中で、これからは一つひとつの地銀の役割が一層重要になるでしょう。従来の業務にとどまらず、さまざまなことに挑戦する地銀も増えるはず。そうした新たなチャレンジをサポートし、一緒に地域を盛り上げていきたいです」
 地方銀行に押し寄せる変革の波。その中で協会に、自分に何ができるのか。緒形さんは問い続ける。

 「銀行業務に関する規制緩和が進む今、地銀ももっとオープンで多様になる必要があると思いますし、それは当協会も同じです。私は外から来た分、協会の発展に向けて今までにない試みにも着手したいですね。すぐには難しいですが、できることを地道に探っている最中です」

 「地域社会を支える地方銀行」を支える仕事。そこに、新しい風を吹き込むために――。凛々しく前を向く緒形さんの挑戦は、これからも続く。

  • ※1 DX:デジタルトランスフォーメーションの略語。デジタル技術を駆使して、産業や暮らしをより良いものへと変革すること。
  • ※2 ESG経営:環境(Environment)、社会(Society)、ガバナンス(Governance)の3つを重視する経営方法。

※所属・肩書等は取材当時のものです。