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不動産鑑定士の資格を活かしてM&Aに携わる

2024.06.10

法学部 卒業生

寺田 通成

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寺田 通成
TERADA Michinari
株式会社 KPMG FAS

2012年度 法学部法学科卒


私×学習院大学

学部・学科を超えて縦横の強いつながりができた

学習院大学はワンキャンパスで学生同士の距離が近いこともあり、在学中はもとより、卒業後も学部・学科を超えた同窓という意識を強く持てるように思います。実際、社会に出てから社内や取引先で学習院大学出身者と出会う機会が多かったのですが、同窓だとわかると初対面にもかかわらず打ち解けて接してくれました。また、大学卒業後も後輩たちを支援する活動を通じて母校とつながる中で、多くの先輩・後輩・同窓生との交流が続いています。このように、社会に出てからも世代を超えた強い絆を作ることができることは、学習院大学の大きな魅力のひとつだと思います。

 近年、M&A(企業の合併・買収)の件数が大きく増加している。調査によると、2022年には、4,300件を超える過去最多の件数を記録した。事業規模を積極的に拡大したいと考える企業が増えてきたこともその要因だが、後継者不足や人材不足に悩む企業が事業存続のためにM&Aを行うケースが増えたことも大きく影響しているという。

 2013年に法学部法学科を卒業した寺田通成さんは、現在、世界4大監査法人のひとつに数えられる「KPMG」において、M&Aを主な業務とするコンサルティングファーム「KPMG FAS」に所属。不動産鑑定士という国家資格を持つ専門家として、M&Aをはじめとする不動産関連業務に取り組んでいる。

 「M&Aを行う際、多くの場合不動産がかかわってきます。例えば、その買収・合併を検討する相手企業の保有する不動産の価値をどのように把握すべきか、買収・合併を行った後、その不動産の価値をいくらで財務諸表に計上すべきか、また、保有している不動産をそのまま活用すべきか、それとも売却するべきかなどの不動産戦略の策定等々、M&Aそのものや企業経営に大きな影響を与える課題が出てきます。
 しかし、不動産は専門性の高い分野なので、会計分野を主な事業とするコンサルティングファームでは手が回らないという状況でした。そのため、私は不動産鑑定士としてのスキルを活かして、数年前に設置された不動産チームで不動産に関する諸問題の解決にあたっています」

 寺田さんが不動産に興味を持った理由のひとつに、自身が新興住宅地で生まれ育ったことがあった。町がどんどん姿を変え発展していく様子を見て、街を作っていくデベロッパーの仕事に惹かれていったという。

 「法学部に進学した当初は、専門知識を駆使して仕事をする弁護士に憧れていました。その後、在学中に不動産業界に興味が移り、卒業後は不動産会社に入社。不動産仲介の仕事に取り組んでいましたが、高い専門性を身につけたいという思いは変わらず、不動産鑑定士の資格取得を目指しました。
 不動産鑑定士は、公認会計士と並ぶといわれることもあるほど取得が困難な資格です。仕事と勉強の両立に限界を感じたため、不動産鑑定士の個人事務所に転職して実務を経験しながら勉強に邁進しました。就職活動をしていたときは、同じ会社に一生勤めあげるつもりだったので、自分でも意外な決断でした」

 寺田さんはそれから約3年をかけて不動産鑑定士の資格を取得する。有資格者は全国で約8,500人(2024年1月時点)と、公認会計士や税理士などいわゆる士業といわれる資格グループの中で最も希少な資格だ。

 「不動産価値は企業の財務活動の中でも非常に重要なものです。不動産価値がわからないと企業がどの程度の資産を持っているのか、その価値をどう高めればいいのかもわかりません。不動産鑑定士は、そうした不動産価値を公式に算出することができる国家資格です。社会的に大きな意義のある仕事ができる資格なので、とてもやりがいを感じています」

 不動産鑑定士としての可能性を追求するため、総合デベロッパーで経験を積んだ後は、M&Aという異なるフィールドで自らを試すべく、現在の会社に転職。日々、忙しく業務に取り組む中で、学生時代の学びが活かされていることを今も実感するという。

 「法学の授業では、ディスカッションやグループワークを通して身につけた知識をアウトプットする機会が多くありました。ある課題に対して論証を行い、結論を導き出すというプロセスを何度も重ねたことで養われた論理的思考力は、日常の業務でも存分に活かされています。また、売買でも賃貸でも不動産の取引は基本的に法律に基づいて行われますので、学生時代に学んだ不動産関連の法律の知識は直接的に役立っていますし、法を遵守することの大切さも常に意識しています」

 在学中は軽音楽部に所属してギターを担当していたという寺田さん。振り返ってみると理想的なキャンパスライフだったと語る。

 「学習院大学を選んだきっかけは、卒業生である母の影響でした。都心の美しいキャンパスで学べることや、ひとつのキャンパスに全学部があるので他学部の学生とも交流できることに大きな魅力を感じました。実際に入学してみると歴史あるキャンパスの風景を目にして学習意欲が高まりました。
 真面目な学生が多かったのも良かった点です。大学生というと遊びを満喫しているイメージがあったのですが、学習院大学では目標に向かって勉学に励む学生が多く、私自身も社会に出たときに武器となる専門性を身につけなければという意識が芽生えたのを覚えています」

 軽音楽部で熱中していたギターは今も趣味として続けている。休日には妻が演奏するピアノに合わせてセッションを楽しんだり、友人のバンドのライブにヘルプとして参加することもあるという。現在の会社は入社してまだ2年目。異なる業界に飛び込んだため、戸惑うことも多いが公私ともに充実した毎日を送っている。

 「M&Aには、会計士や金融業界出身者などさまざまな業種の人々が携わります。不動産業界で働いてきた自分には聞き慣れない専門用語が飛び交ったり、仕事の進め方が異なったりして苦労することもあります。しかし、学生時代に法学部に所属しながら経済や経営、心理学など幅広い分野について学んだ経験や、軽音楽部で他学部の学生と一緒に活動する中でさまざまな価値観に触れた経験があったため、自らの価値観にとらわれず新たな環境に順応しながら仕事に取り組めています。
 また、以前の職場では不動産を鑑定して業務は終わりでしたが、現在はその後不動産の価格がどのように会計処理されるか、不動産をどのように活用すべきかという提案からそのサポートまで行います。クライアントには日本を代表する企業が名を連ねており、プロジェクトのスケールも大きい。自分が携わった案件がニュースになったときには大きな達成感を味わえます」

 不動産鑑定士としての仕事をするうえで、現場の視察は欠かせない業務だ。不動産を評価するには、必ず自分の目で物件を確認する必要がある。

 「評価の対象となる不動産の敷地がどこからどこまでなのか、現在どのような使われ方をしているのか、といったことを現地でくまなく調査します。書面と現況が異なることも多々ありますから。また、不動産の所在地が地域の中で栄えている場所にあるのか、そうでないのかなども実際に訪ねてみないとわかりません。そのため、多いときでは3日に一度は地方に出張に出ています。大変ですが、さまざまな町を見て回るのは楽しいですし、良い経験になります」

 不動産鑑定士という資格を軸に、不動産仲介会社、不動産鑑定事務所、デベロッパー、そしてコンサルティングファームとキャリアを重ねてきた寺田さん。その視線は常に将来を見据えている。

 「私が所属している不動産チームは、まだできてから日が浅く、規模も大きくはありません。しかし、それだけに伸び代があり、今後実績を積んで認知度と対応可能な業務の幅を広げていきたいと思っています。そのためにも、会計の知識をはじめとする不動産以外の知識もより積極的に身につけて、5年ほどのスパンでチームを倍以上の規模の組織に成長させたいです」

 不動産鑑定士として叶えたい将来の目標もすでに決まっている。国土交通省が毎年公開している土地の価格の基準となる数値、地価公示価格の鑑定評価を行うことだ。

 「日本の土地の価格を決める国の重要な仕事です。自分の名前が記載されるため大きな責任を伴いますが、不動産鑑定士にしかできないこの仕事にいつか必ず携わりたいですね」

※所属・肩書等は取材当時のものです。