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困難に直面する人を金融の力で支えたい

2024.06.10

経済学部 卒業生

田口 奈々子

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田口 奈々子
TAGUCHI Nanako
株式会社 千葉銀行

2020年度 経済学部経済学科卒業


私×学習院大学

多くの個性と出会えた"目白の社"

都会の中の緑豊かな"目白の杜"は、私にとって、多様な価値観や知識を持った人との出会いの場所でした。このキャンパスで4年間を通じて文系・理系学部のさまざまな学生たちとかかわりながら、自身の世界を広げ、自分らしさを磨いてきました。社会に出てからは、「田口さんはどう思う?」と意見を求められることが頻繁にあります。そんな時、まだ若くて経験が浅いからと萎縮せず、きちんと自分の意見を表明できるようになったのは、大学時代の経験があったからこそだと思います。私を成長させてくれた周囲の人への感謝と謙虚さを忘れず、確かな自信を持って今後も歩んでいきたいと思います。

 「本当にお金に困っている方ほど、金融の仕組みや支援制度をご存知でないケースが多いと感じています。子どもの未来を支える学資保険や教育ローン、生涯の生活を支える住宅ローン、企業経営を支える事業融資、生命保険、損害保険、NISAやiDeCo。それぞれの仕組みや、何をどう組み合わせればどのようなサポートが受けられるのか、どんな未来が開けるのか。お客さまに合う方法を考え、わかりやすく伝えていくことが銀行員の使命です」
 千葉銀行南流山支店の田口奈々子さんはこう話す。少しでもお金で苦しむ人を減らしたい――。そんな真摯な思いから銀行員を志した。2021年4月に入行し、我孫子支店に配属。2023年4月からは南流山支店に勤務する。

 価値観に大きな影響を与えたのは高校時代に出会った人たちだった。小学生の頃から英語教室に通い、「英語が好きだから」という理由で英語教育に強い松戸国際高校を選んだ彼女だったが、世界各国から来日した多様な背景を持つ同級生たちから多大な影響を受けた。

 「国籍や宗教、母国語の異なるクラスメイトがいて、中には内戦中のシリアから逃げてきた子もいました。海外で働く社会人による課外授業も多く、JICA海外協力隊の方から世界の貧困地域の実態について聞いたことも。
 貧困地域では1日3食の食事ができることはまれで、片道4時間かけて通学したり、片道2時間かけてバケツで水を汲みに行ったり......。そんな話を耳にして、毎日学校に行き、清潔な服を着て、きちんと食事を取れる日本がどんなに豊かな国であるかを実感しました」

 同時に疑問も湧いてきたという。「日本のことを、私は本当に知っているだろうか。自分の生活は普通なのだろうか」と。
 少し調べると、それは全く当たり前ではないことがわかる。豊かな国だと思っていた日本でも、実に7人に1人の子どもが貧困状態にあり、OECD(経済協力開発機構)の中で最悪の水準だった。1日1食しか食べられず、進学したくても諦めざるを得ない子が、現代日本に数多く存在することに衝撃を受けた。

 「貧困家庭で最も多いのは、世帯主が非正規雇用のシングルマザーというケースです。住む所はあり、ギリギリの生活ができているので問題が表面化していないのが現実です。実情に気づき、隠れた貧困に目を凝らさないと、なかなか真実が見えてこないのです」
 この問題をマクロ視点から知るために経済の仕組みを学びたいと考えた田口さんは、学習院大学経済学部に進学した。大学では子どもや女性の貧困、社会保障について理解を深め、日本の社会保障制度が有効に機能していないことを知った。

 「シングルマザー家庭が貧困から抜け出すため、どんな社会の仕組みを必要とするかを調査しました。結婚や出産を機に非正規雇用を選んだ女性が再び正社員として就職するには大きなハードルがある。資格取得によってそれを乗り越えるため、資格講座の受講費用の一部を国が負担する教育訓練給付制度もありますが、対象とする資格は限られています。給付対象外の人も多く、実態に即していないことが見えてきました」

 この調査で判明した内容をまとめて英語によるプレゼンテーションを行い、反響を得て、さらに研究を深めていったという。
 所属するゼミでは社会保障論を専門とする鈴木亘教授のもと、タイムリーな社会問題をテーマにディベートし、問題の要点を押さえる力、自分たちの主張を理解してもらう話法、難しい事柄を判定員にわかりやすく伝える力を蓄えた。

 「時には自分の本来の意見と正反対の主張をするチームとして議論することもありました。そんなときはすぐに意見を変えるのではなく、反対意見を持つ私だからこそ、対戦チームの反論を予測し、対策を練ることができると考えて、テーマをとことん追求し、自分の意見をしっかり持つことで、チームに貢献しました。社会に出てからは、より自分の意見を持つことが大事だと感じますし、ゼミで鍛えられたことが大いに活かされています」

 そんな彼女がライフワークにしてきたことがある。水泳だ。4歳のときから水泳教室に通い、50メートル自由形と100メートル平泳ぎで県大会3位に入賞。全国大会に出場した経験もあるが、膝の怪我で中学2年生で引退を余儀なくされた。しかし、学習院大学では、再び水泳部に所属。膝への負担が少ない自由形で再び泳ぎ始めた。

 「大学の目標は人生最速タイムをマークすること。ブランクに苦しんだ時期もありましたが、私のそばには私以上に熱い思いで向き合ってくれるマネージャーがいました」
 その思いに結果で恩返しをしたい一心で練習に打ち込んだ田口さん。初めて目標タイムを切った瞬間を映像で見返すと、マネージャーの「切れた!」という歓喜の声が聞こえ、熱いものが込み上げたという。目標に向かって行動する時、自分は独りではなく誰かに支えられているのだと強く感じた。田口さんにはもう競技生活で思い残すことはない。ゆくゆくは100歳スイマーとして記録を残すのが人生の目標だと笑う。

 日本の貧困に対する問題意識と経済学部の学びから、「仕事を通じて人を助ける」という目標を見つけた田口さん。就職活動にも、水泳部でゴールを目指した日々と同様に、目標を立て、考えて行動することを旨として取り組んだ。金融業界に絞り、生命保険会社や損害保険会社なども検討したが、日本社会で本当に困っている人を助けられる仕事を追求してたどり着いたのは銀行だった。

 ベストな救済方法はその人の状況によって異なる。当座のお金を必要とする人、将来に備えて資産を形成したい人、万一のときに備えたい人など、十人十色だ。

 「問題解決に向けたサービスを提供するにあたり、損害保険会社は損害保険、生命保険会社は生命保険しか販売できません。しかし銀行は、損害保険でも生命保険でも融資でも扱えるのです。『困っています』と相談に来られた方に全力で向き合える仕事がしたいと希望したのが、銀行に就職したきっかけです」。

 そして千葉銀行を選んだ理由は、「生まれ育った千葉県に思い入れがあり、地元の人たちの役に立ちたいという思いからですね。対面でお話をするときに、共通の話題があるのは楽しいものです」

 今、特にやりがいを感じているのは住宅ローンの渉外業務だという。
 「大学で社会保障論、特に年金についてよく学んだので、住宅ローンという制度に興味を持ちました。持ち家派と賃貸派では意見が分かれますが、私は現役時代に住宅ローンで家を買うことが退職後の大きなアドバンテージになると考えます。将来的に年金収入のみになった際、家計の負担になる家賃支払いがなければ、その方が圧倒的に良いと断言できますから」

 マイホームという人生で一番大きな買い物に立ち会うのは、仕事をしていて胸が高鳴る瞬間だという。
 「抵当権の設定、審査、団体信用生命保険など、ほとんどのお客さまにとって理解しにくく、初めて聞く言葉ばかりでしょう。希望と不安が入り交じる心境のお客さまのお役に立てるのは本当にうれしいことです。誠心誠意対応させていただいています」

 住宅ローンを組むのは一生に一度であっても、契約が完了すればそれで関係が終わるわけではない。住宅ローンを組んだ顧客は給与振込口座を変更し、メインバンクとして太く長い付き合いが始まることが多いからだ。
 「生命保険に加入している方には、見直しもご提案します。もちろんベストな保険に加入されている場合はそれでいいのですが、場合によっては同じ保障内容で保険料が半分程度に減ることもあります。ご提案をすることで『教えてくれてありがとう』と喜んでいただけると、私自身も励みになります」

 千葉銀行に就職してもうすぐ3年になる。個人の顧客に対する業務には経験と自信を積み重ねてきたが、今年からは法人に対する事業融資業務も担当している。一から学ぶことばかりだというが、どのような気持ちで取り組んでいるのだろうか。

 「やはり、自分の意見を持つことを大切にしています。業務上では難しい案件や知らないことに直面するので、上席に相談することが多いのですが、その前に必ず自分自身で調べ状況を整理します。自分の意見や考えを伝えつつ相談するように努めています」

 意見を持つには、何事も自分事として捉えること、問題意識を持つこと、状況を理解し経験や知識を基に考え抜くことが重要だと田口さんは考えている。大学時代、そのようにして社会問題について学びを深めた経験が今に活きているという。

 「貪欲に思考し続ける人でいられるように、常に成長を意識しています。何事も、誰に対しても、真摯に謙虚に行動することで、周囲の人から信頼され、仲間が増え仕事がしやすくなるでしょう。銀行はお客さまに寄り添った提案ができる場所です。銀行に相談に行くのは少し緊張するというようなイメージを払拭できる銀行員に、私はなりたい。『田口さんに相談してよかった』と言っていただけるよう成長し続けたいですね」

※所属・肩書等は取材当時のものです。