為替の動きから探る 日本・アジア経済の行方
2024.02.26
清水 順子 教授
prof. SHIMIZU Junko
専門:国際金融論
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研究者になるまでの歩みを教えてください
為替ディーラーから研究の道へ
もともと大学を卒業してから約20年、国内外の銀行で為替ディーラーとして働いていました。日々変わる市場の動きを追い、為替取引を行う仕事は多忙ながらも楽しかったのですが、ちょうどロンドンにいたときに、1985年のプラザ合意、1992年の欧州通貨危機を経験。金融史における歴史的瞬間を二度も目の当たりにし、「なぜ為替はこれほど動くのか」「それが各国の経済にどのような影響を及ぼしているのか」という疑問が改めて湧いてきたのです。そこで、もう一度勉強し直すために40歳で大学院へ進学しました。当初は仕事に戻るつもりでしたが、研究をはじめると面白くて。マーケットで得た知識や経験が生かせるという手応えもあり、そのまま研究者の道に進みました。
先生が研究している内容を教えてください
なぜ円建て取引は広がらないのか
主な研究のひとつが、為替動向が日本経済に与える影響の分析です。2022年前半から急速に進んだ円安と資源高が、この10年続いてきた貿易赤字の拡大に拍車をかけている現在。かつてない危機に直面する日本経済をどのように立て直すべきか、今は特にその方策を探っています。また並行して、企業が貿易を行う際に用いる「通貨」に関する研究も手掛けてきました。日本企業の取引は、先進国の中では珍しくドル建てに偏っていますが、本来は自国通貨である円建ての方が金融危機や為替変動のリスクを回避できます。そこで、企業の貿易建値通貨選択や為替リスク管理の実態を調べ、なぜ円建て取引が広がらないのか、日本及び諸外国での普及のために何が必要かを検討しています。
近年力を入れている研究テーマは何ですか
アジアの人々に、金融の恩恵を
日本だけでなく、アジアの国々も過度なドル依存から脱却し、現地通貨の取引を増やすことが今後の成長の鍵になります。その道筋を探るべく、タイ、シンガポールからカンボジアやミャンマーまで赴いて調査を重ね、2021年からはADB(アジア開発銀行)のリサーチコンサルタントとして共同研究を行っています。研究を進める中で見えてきたのは、新興国の人々の多くが銀行口座も持たず、金融に関する知識や情報がない中で、スマホによるデジタル金融が進んでいるという危うい現状。誰もが安全に金融サービスを利用し、恩恵を受けられる「ファイナンシャル・インクルージョン」の必要性を痛感し、この点についても研究を深めていきたいと考えています。
特徴的な研究手法やモットーを教えてください
現場に赴き、当事者の声を聴く
大事にしているのは、現場に足を運び、人々から直接話を聴くことです。経済の根幹は「人の行動」なので、リアルな声から得られるヒントが必ずある。前述の貿易建値通貨に関する研究でも、日本各地の企業を訪問し、ときにはものづくりの現場を見学しながら、ドル建てを選択する理由や為替戦略についてヒアリングを重ねました。2019年には、この研究成果をまとめた書籍を出版。同年「日経・経済図書文化賞」を受賞したほか、国内外の企業等から多数の問い合わせや反響があり、大変うれしい結果となりました。
清水教授の知の展望
アカデミックと実務のさらなる融合へ
日本経済が非常に厳しい状況にある今だからこそ、政策に直結する研究を手掛け、社会が向かうべき方向を示すのが私たち経済学者の使命だと考えます。「机上の空論ではなく、現実的に役立つ提案を」というモットーは、この先も変わりません。日本、そしてアジア全体として、いかに安定した金融システムを構築していくか。山積する課題の解決に向けて、「アカデミック」と「実務」を融合させ、元実務家の視点を最大限に生かしながら貢献していきたいと思います。
PROFESSOR'S LIFE STORY
大学 | 「今後は女性も経済を勉強する時代」という父の言葉に後押しされ、一橋大学経済学部に進学。公共経済学のゼミで学ぶ。 |
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就職 | チェース・マンハッタン(現JPモルガン)ほか国内外の銀行を渡り歩き、東京とロンドンを拠点に為替ディーラーとして働く。 |
大学院 | 40歳で大学院へ。折しも実証的なデータ分析が普及しはじめた時期で、実務家として重宝され、研究者への転身を決意。 |
国の機関でも活躍 | 大学に籍を置きつつ財務省の審議員を長く務め、経済産業研究所ほか国内外の研究機関のプロジェクトにも多数携わる。 |
※所属・肩書等は取材当時のものです。