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高齢化で増える相続問題に丁寧な法解釈で血の通う解決を

2025.06.12

水野 謙 教授

Prof. MIZUNO Ken

法学部 研究知

専門:不法行為法・相続法

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現代社会における相続のあるべき姿とは

 高齢化社会の進展に伴い、遺言を残す人が増えています。最近特に多いのが、年老いた配偶者や経済的に豊かではない相続人のために、自分の全財産や不動産など特定の財産を「相続させる」と書かれた遺言です。民法を専攻する私の研究テーマのひとつは、このような遺言の効力や相続のあるべき姿についてです。戦前の日本には、原則として長男が家の統率者の地位を承継し、家に属する財産を独占的に支配する家督相続という制度がありましたが、戦後は、家制度の解体に伴い民法が改正されて、性別や年齢などにかかわらず、法定相続人であれば、法定相続分の割合で平等に遺産を承継できる均分相続が基本となりました。「相続させる」遺言をめぐっては、このような均分相続の理念を重視するのか、それとも遺言者の意思を重視するのかという考え方の対立があります。私は、後者の立場に立って、自分の死後、経済的に打撃を受ける相続人のことなどを心配して遺言を残した人の意思ができるだけ実現できるように、関連する条文を積極的に解釈することが望ましいと考えています。家督相続から均分相続へという流れの、もう一歩先に、現代の「相続させる」遺言は位置づけられるべきだと私は考えます。

"息が長い解釈"を目指して物語のように読み解く

 約30年前の大学院在学中に、「相続させる」遺言について、遺言者の意思を重視する立場から民法の条文を解釈し、遺言の名宛人である特定の相続人は遺産分割を経ずに遺産を承継できるという新しい内容の論文を発表しました。おそらくその論文が最高裁判所の調査官の目に留まったのだと思いますが、その後、最高裁は、私の見解とほぼ同旨の画期的な判決を下すに至りました。法律学というと、条文を機械的に適用するイメージがあるかもしれませんが、大切なことは条文を「解釈する」ことです。私は、条文の解釈は物語を読み解く作業と似ている面があると考えています。なぜこういう言葉が使われているのかと徹底的に考えたり、作った人の気持ちや時代背景、あるいは今を生きる私たちに与える影響などに思いを巡らしたりということが、条文を解釈する際にも重要だからです。人と社会との関係や、ときには哲学の領域にまで踏み込んで条文を深く理解すれば、「息が長い解釈」になりうると思います。さまざまな事案に、柔軟かつ適切に条文を適用することもできるようになります。そのような能力を身につけた人材(法曹に限らず広い意味での「法律家」)を育てることが私の役割のひとつだと考えています。

PROFESSOR'S LIFE STORY

大学 人と社会との関係について漠然と興味があり、法学部に進学。法律の条文をさまざまな角度から解釈することに面白さを感じた。
就職 卒業後は銀行に就職したが 、バブル景気の中 、本部からの数字を達成するために働く毎日に疑問を感じ退職。大学院に進学。
大学院 損害賠償の研究をするかたわら、「相続させる」遺言の効力についても検討し、最高裁が下した新しい判決に影響を与えた。
研究の道へ 損害賠償と相続について研究を継続。授業では、一つひとつの条文を丁寧に解釈し適用できる人材の育成に力を注いでいる。

※所属・肩書等は取材当時のものです。