

「より善く生きる道」の探究が、公平な社会をつくる糸口に
2025.06.12
小島 和男 教授
Prof. KOJIMA Kazuo
専門:ギリシア哲学・倫理学
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生きる意味とは?公平性とは?
「普通」を疑う多角的な視点を持つ
私の主な研究テーマのひとつである「反出生主義(アンチナタリズム)」とは、この世に生を受けることで感じるさまざまな苦痛を子孫に与えないよう、出生そのものを否定する、という考え方です。出生を否定する考え方は一見ネガティブに思えますが、裏には、「子孫が生きることに苦痛を感じるくらいなら、生まないほうがいい」という一種の優しい動機があります。私は家庭環境の複雑さから、「なぜ人は平等に生まれを選べないのか」「生きる意味とは」と大人びた悩みを抱いていた子どもでした。哲学の面白さに目覚めて研究者になればなったで、当時は権威主義的で男性優位だった哲学界の在り様に「ここにも不平等があるのか」と胸を痛めたことも。そうした中で出合ったのが反出生主義でした。「生まれてこないほうが良かった」と自覚することは面白いことではありませんが、研究をしていると現実がより鮮明に見え「生まれたからにはより善く生きよう」と思えるようにもなれたのです。つまり、私の反出生主義の研究は、生まれたからにはなるべく善く、マシに生きようとすることに直結しているのです。「生きる意味」や「公平性」について考えられるだけでなく、世の中の「普通」に疑問を持てるような多角的な視点も養いながら、次代を担う皆さんも「より善く生きる道」を探究しませんか?
既存の考え方にとらわれない
「正しい少子化対策」に気づく一助に
反出生主義は、「超少子高齢社会」という問題を抱え、人口増加を促進したい国の意向とは相容れないように見えますが、意外な形で解決に寄与できるのではないでしょうか。わが国ではこれまで出生率を上げようと躍起になってきましたが、成果は芳しくありません。その背景には、出生による人口増加は女性側に偏った負担を強いる方法であり、女性たちが積極的に子どもを生みたいと思える社会ではない、という事実があると感じます。無理に出生に頼らず、ほかの方法で次代の日本を支えていく必要がある現代において、誰かに負担が偏ることなく皆が公平に生きられる 、新たな社会の在り様を生み出せる考え方の反出生主義を研究することは、今の世代が次の世代に負担をかけずにリソースを配分していくという、正しい少子化対策に気づくための一助になるかもしれません。それは社会への貢献と言えると思います。
PROFESSOR'S LIFE STORY
幼少期 | 複雑な家庭環境もあり、大人びた少年だった。内に生まれる哲学的な問いに悩み、本の世界に没頭する日々を送る。 |
高校 | このころまでにさまざまなジャンルの書籍を読破する。一冊の哲学書に触れたことが契機となり、哲学の道へ。 |
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大学・大学院 | 学習院大学・大学院でプラトン・ソクラテスを中心とした哲学史研究に従事。 |
研究者として | 反出生主義との出合い。現代日本が抱える「超少子高齢社会」という問題を解くひとつの鍵になるとの思いもあり、研究テーマに掲げるようになる。 |
※所属・肩書等は取材当時のものです。