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異国で生き抜くための日本語教育普及に邁進

2024.06.10

金田 智子 教授

Prof. KANEDA Tomoko

文学部 研究知

専門:日本語教育

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これまでの歩みを教えてください

日本語学習者が着実に成長する姿に感動

 大学院を1年休学して参加した、日本語教育長期専門研修がきっかけで日本語教育の道に進みました。日本語を分析したり、外国語教授法を試したり、学習者を集めて教材を作って教育実習をしたり――。1980年代、専門的な日本語教師教育の場が少ない中、こうした経験ができたことは貴重で、学びのすべてが新鮮でした。特に印象深かったのは、学習者が私とのかかわりの中で新しい言葉を習得していく過程を目にしたこと。「私のやりたかったことはこれだ」と、大学院を中退して日本語学校へ就職しました。その後、留学も経験し、アメリカのEarlham College、国立国語研究所など複数機関で日本語教育に携わり、今に至ります。

「生活者のための日本語教育」について教えてください

使用実態・ニーズの正確な把握で
学びやすい環境づくりの一歩を

 日本では1990年代から労働力確保のため、国を挙げて外国人の受け入れを積極的に行いましたが、彼らが生活に必要な日本語教育を受けられる場は非常に少ないという実情がありました。しかし、2006年に「『生活者としての外国人』に関する総合的対応策」が発表されて以降、在住外国人の「生活」に目を向けた日本語教育に関する検討が本格化します。私は当時、国立国語研究所に所属しており、海外における自国語教育について研究するとともに、在住外国人を対象に全国規模の基礎調査を実施。彼らの日本語の使用実態、ニーズの把握に努めました。この成果は日本語教育小委員会の「標準的なカリキュラム案」、文化庁の「生活Can do」等に活かされています。

※国内に在住する外国人(「生活者としての外国人」)が日常生活のさまざまな場面において、日本語で行うことが想定される言語活動を例として示した生活分野における言語能力記述文(Can do)

研究を更に深めるために何が必要だと思いますか

教育者側の意識改革も
研究の目指すところ

 「教師教育」の研究は、複数機関で教師教育や研修企画に携わる傍ら、少しずつ進めてきた研究です。各地の日本語教室の授業風景を撮影し、他の研究者と分析してみてわかったことがあります。それは、例えば、「対等性」を方針にしている教室であっても、学習者と学習支援者の関係が必ずしも対等にはなっていないこと。支援者が学習者の発言意図を汲み取らず、一方向のやりとりをしている様子がしばしば見られました。こうした状況について疑問を投げかけるために、日本語指導者・学習支援者向けの漫画教材を作りました。教室の様子を漫画化することで、方法に対する気づきや改善につながればと願っています。

研究活動で印象に残っているエピソードは何ですか

日本にいるからといって
日本語を学びたいわけではない

 研究の一環で日本在住の外国人に取材したときのことです。彼らからは「手続きはパートナーがやってくれるので、自分は学習の必要性を感じない」「独力で何でもできるようになりたい」という対照的な回答が得られました。モチベーションの高い学習者への支援はさほど難しくないが、日本語学習意欲の低い在住外国人への働きかけをどうすべきか。これは新たな課題だと感じました。国内の外国人家庭では、日本語を流暢に話せない親が、子どもを病院や公的機関に同行、通訳させるといったこともあります。この問題を解消するために、学習者が自分自身の成長の喜びを実感し、モチベーションを高められるような工夫が重要だと感じています。

金田教授の知の展望

専門性を磨き人間性の醸成も
大学という機関が果たす役割

 現在は他大学の研究者と「生活Can do」を用いたカリキュラムを検討中。今後は「生活のための日本語」研究を進めるとともに、その実践・発信にも注力します。また、昨今の日本語教育の世界では「登録日本語教員」の国家資格化がホットな話題であり、本学でも資格取得に向けたカリキュラムを設定しています。ただ合格を目指すのではなく、身につけた知識をどう活かすか、どういう姿勢で日本語教育に臨むのかをしっかり考えられる学生を育てていきたいです。専門性と人間性、双方を磨いてこそ大学教育の意味があると思っています。

PROFESSOR'S LIFE STORY

日本語教育長期専門研修 将来の方向性を模索していた時期。日本語教育の面白さに目覚め、思い切って方向転換を。
就職・留学 日本語学校で働きながら、ファンズロー(John F. Fanselow)の教師教育と出会い、自分の行動や信念を見直すきっかけに。
国立国語研究所 「生活者のための日本語教育 」研究をスタート。このときの調査結果が、日本語教育小委員会や文化庁の日本語教育資料のベースとなった。
学習院大学 従来の研究活動を続ける傍ら、「学習院大学わくわくとしま日本語教室」など、地域と連携した日本語教育の実践にも注力。

※所属・肩書等は取材当時のものです。