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物理学の最先端理論を数学的アプローチで確かなものに

2024.06.10

中村 周 教授

Prof. NAKAMURA Shu

理学部 研究知

専門:数理物理学

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先生の研究内容を教えてください

物理と数学をつなぐ数理物理学

 大学時代に数学と物理学に興味を持っていたことから、物理学の理論を数学的に厳密な枠組みで研究する数理物理学に取り組むようになりました。中でも力を入れてきたのが、量子力学のモデルの数学的構造に関する研究です。「量子力学」の基本方程式であるシュレーディンガー方程式などを数学的に解析する試みを続けてきました。量子力学は現代の物理学の基礎であり、物理的な世界を理解するうえで欠かせないものですが、ニュートン力学とは異なり、直感的に理解することが困難です。その理由のひとつが、数学的なモデルの解析を通さないとその構造が理解できないことにあります。物理学は現象と理論が合致していれば、曖昧な部分があっても許容されますが、数学では厳密に証明することが求められます。そのため、物理学者から数学的な証明を依頼されることもあります。このように分野横断的な研究ができるのも数理物理学の面白さです。

研究するうえで大切にしていることは何ですか

視野を広げた学びが財産に

 数学の研究をしていると、どうしても自分の持つ知識を道具として使える研究課題を探しがちです。しかし、逆に面白い問題を探して、それに必要な道具を見つけることが、深く研究を進める姿勢として重要ではないでしょうか。物理現象として、あるいは数学的構造として面白い問題の発見が視野を広げてくれます。その一方で、研究に直接つながりそうにない興味の追求が、後に活かされることがあります。中学・高校時代には哲学に興味を持って、理解できないながらもさまざまな哲学書を読みかじりました。哲学を理解しようとすることを通じて、論理的に突き詰めて物事を考える姿勢や能力が身につきました。また、音楽・オーディオ好きが高じて、電子工学を独学で学んで得た知識が、後に半導体の研究で役立つことに。このように、興味の幅を広げて自ら学ぶことが、長期的には研究者としての財産になったと思います。

近年力を入れている研究テーマは何ですか

物性理論にも研究対象を広げる

 私の研究は、数十年スケールでゆっくり進展していくような分野です。そのため、社会と密接にかかわることや、流行のトピックに皆が飛びつくということはほとんどありません。しかし、ときには新たな物理学の話題で研究が盛り上がりを見せることもあります。その一例が量子コンピュータで、現在、量子計算の理論は数理物理学の新たな研究領域として発展しつつあります。私自身は近年、少数粒子の量子力学だけでなく、物体の性質を研究対象とする物性理論にも研究の幅を広げています。2004年、炭素原子が六角形の網目のように結合したグラフェンという素材が発見されました。非常に薄いのに強靭で導電性に優れることから、さまざまな応用方法が期待されている素材ですが、現在はその量子力学モデルについても研究しています。数学は社会とのかかわりが薄いとはいえ、現在の最先端の技術と、数理物理学で議論している内容が次第に近づいてきているのを感じます。

研究の面白さや醍醐味を教えてください

世界をより深く理解するために

 数学を研究するには他の研究者との交流も大切ですが、最終的には自分で考えることが決め手になります。自分の頭で考える行為は、いつでもどこでもできます。例えば、一人でヨーロッパの長距離列車に乗っていたときに、ふと難しい計算を解決するアイデアを思いついたり、子どもを寝かしつけているときに新しい計算方法が頭に浮かんだり。頭の片隅でずっと考えているとふとしたきっかけで新しいアイデアが湧いてくる。それも数学だからこそ味わえる醍醐味です。また、物理現象を数学的に理解するということは、この世界がどのような理論に基づいて組み立てられているのか理解することを意味します。いわば、数学は世界を理解するための道具なのです。その道具を使って、これまで曖昧にしか理解されていなかった事柄がより明確に理解できるようになる。その新鮮な発見の喜びを味わうために日々、研究を続けています。

中村教授の知の展望

学生時代から取り組む理論構築をさらに深める

 学生時代から続けている「量子力学モデルの数学的構造」というテーマを更に掘り下げていきたいと考えています。具体的には、一般相対性理論に登場する曲がった空間上の量子力学を説明するのに必要な数学的な理論の構築や、結晶を構成する分子の間を運動する粒子が、分子の間隔をゼロに近づけた場合、どのような振る舞いをするかを数学的に予測する研究を続ける予定です。また、量子力学の応用分野である半導体中での電子の挙動についても、数学的な解析を進めていきたいと考えています。

PROFESSOR'S LIFE STORY

高校時代 哲学・認識論に興味を持ち、哲学書を読み漁る。哲学理論を理解する段階までいかずとも考える力は鍛えられた。
大学 数学と物理学の両方に興味を持ち、数理物理学を学び始める。当初は数学以上に物理学の勉強に力を入れていた。
大学院 粒子の量子力学モデルの数学的構造を解析することを主なテーマとして研究を行う。その後、物性理論などに研究対象を広げていった。
転機となった出会い 海外の学会に参加したとき、同じ分野の同世代の研究者たちと出会ったことで、研究者として生きていく覚悟ができた。

※所属・肩書等は取材当時のものです。