

心躍らせる演出・表現の数々はアトラクション豊富なテーマパークのよう
2025.06.12
中野 春夫 教授
Prof. NAKANO Haruo
専門:英語・英文学
DIGEST MOVIE
Professor Fileをダイジェスト動画で紹介!
シェイクスピア作品を研究対象に選んだ理由を教えてください
固定観念を覆した『ロミオとジュリエット』
大学院時代に『ロミオとジュリエット』の原文を読んだことがきっかけです。シェイクスピアと言えば真面目な文学作品を想起される方が多いと思います。しかし、元来は大衆演劇の作品です。作品が作られたのは400年前のイギリス。当然、今のようなテクノロジーはないので、すべてはセリフと役者の表現力、観客の想像力に委ねられました。真っ昼間、青空天井の芝居小屋で大がかりな設備は何もない。加えてキャストも全員男性であるなど限定的な状況下でも、生き生きとした作品になるよう台詞の一つひとつに工夫が凝らされている点に、作品の妙味を感じました。
シェイクスピア作品の魅力は、どのような点にありますか
笑いあり、涙あり、感動あり
すべてのエンタメ要素が作品に集結
エンターテインメント性の高さです。例えば『ロミオとジュリエット』は悲しい純愛物語なのに、冒頭にいわゆる「下ネタ」が書いてあるのには驚きました。シェイクスピア作品に共通して言えることですが、笑いあり涙あり、成人向けの描写ありとあらゆるエンタメ要素を盛り込んでいるにもかかわらず、話が破綻していない。これでもかと観客を楽しませようという表現・演出の数々は、さながらアトラクション豊富なテーマパークのようです。こうした魅力があるからか、作品が作られてから400年経った今でも多くの人に愛され、さまざまな形でオマージュされています。
オマージュ作品の代表作を教えてください
時を超え、形を変えて愛される作品の偉大さ
漫画、小説、映画、ミュージカルなど幅広い形で展開されていますが 、有名どころで言えば『ウエスト・サイド・ストーリー 』(『ロミオとジュリエット』のように対立する派閥の若者同士が愛し合う物語)でしょうか。黒澤明監督の作品にも、『リア王』や『マクベス』に影響を受けているものがいくつかあります(『乱』『蜘蛛巣城』)。授業でこうした具体例を伝えると、学生の反応も格段によくなります。活字離れが進む現代では、シェイクスピア作品の文庫本を改めて手に取る人もそう多くないのではと思います。異なる角度から魅力を伝えることで、現代・そして次世代の方々が、作品に興味を持ってくれるきっかけができればうれしいです。
研究のモットーを教えてください
興味のままに突き進み、独自性の高い研究を
「楽しい」という感覚を大切にすることです。父も祖父も英米文学の研究者で、2人とも楽しそうに研究していました。その様子が心にあるからかもしれませんが、私自身も研究を楽しんでいる姿を学生たちに示し、「研究って面白いな。シェイクスピアって魅力的だな」と思ってくれる後進を増やしたいと願っています。「楽しい」という気持ちがあれば、自発的に興味のある学問分野を探究していけるはず。興味のある事柄を掘り下げていくうちに、自ずと関連するほかの分野にも目が向くようになったり、視野が広がり、ユニークな研究につながることもあるでしょう。私も主な研究テーマはシェイクスピア作品に関するものですが、原著(もとになる作品)にあたり、当時の社会背景を探るにつれ、研究の幅が広がっていく喜びを感じています。皆さんにもぜひこの感動を味わってほしいですね。
中野教授の知の展望
シェイクスピア作品を
現代のエンタメとして再発見する
シェイクスピア作品を英文学の古典という位置づけでなく、本来のエンターテインメント作品として捉えてもらえるよう、力を尽くしたいと考えています。驚くほどに多様で魅力あふれる演出・表現がぎっしりと詰まっているのに、単なる古典作品という位置づけで終わってしまうのはもったいない。また、作品本来の魅力を発信するだけでなく、イギリスの芝居小屋の様子や当時の人々の生活などとも関連づけて、文化学・社会学的にも意義のある研究にしていきたいです。
PROFESSOR'S LIFE STORY
幼少期 | 祖父、父と代々続く大学教員の家庭で生まれ育つ。当時から、英文学や研究者への憧れを抱いていた。 |
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大学・大学院 | 大学時代は演劇について学ぶ。大学院で『ロミオとジュリエット 』の原著にあたり、シェイクスピア作品への研究意欲が芽生えた。 |
研究者として | 常に楽しむ姿勢を忘れずに。研究者として手応えを感じたのは初の著書刊行がきっかけ。この分野で研究者として突き抜ける自信がつき、興味の赴くままに教員生活を送り、30年に。 |
※所属・肩書等は取材当時のものです。