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元素に刻まれた地球の歴史を解き明かす

2024.02.26

大野 剛 教授

prof. OHNO Takeshi

理学部 研究知

専門:環境地球化学・分析化学

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先生が研究している内容を教えてください

一片の鉱物が物語る地球史

 原子や分子の質量を測る「質量分析」という手法を用いて、太古の地球の歴史や現代の環境問題の解明を目指しています。具体的には、岩石や堆積物等に含まれる元素の濃度や同位体の比率から、その試料ができた年代や経てきた過程を調べています。例えば、ジルコンという鉱物は生成時にウランを取り込みます。ウランは約45億年かけて半分が鉛に変化するため、ウランと鉛の比率を測れば、そのジルコンが何億年前のものかが分かります。更に特定の元素の含有量を調べると、どのような環境でつくられたのかも推測できるのです。こうしたデータから原始の地球の水や大陸の分布を探り、謎に包まれた生命誕生のプロセスを明らかにしたいと考えています。

環境問題に関する研究はどのようなものですか

土壌や海の汚染実態を調査

 主な研究のひとつが、2011年の福島第一原発事故を受けて行った、放射性元素による汚染実態の測定です。それまで大規模な施設でしか分析できなかった放射性元素を、実験台に載るようなコンパクトな装置で迅速に測る手法を開発。現地に赴いて試料を採取し、原子炉ごとの汚染状況を分析しました。また近年取り組んでいるのが、海の水銀汚染に関する研究です。大型の魚には食物連鎖を通じて水銀が蓄積し、妊婦が食べ過ぎると赤ちゃんに影響を与える可能性が指摘されています。この水銀がどこから来たのか分かれば、汚染を低減できるかもしれません。そこで、水銀の同位体比を調べ、汚染の起源や人為的影響の範囲を特定しようとしています。

研究の面白さや醍醐味を教えてください

シンプルな手法で、壮大な謎に迫る

 「原子・分子の質量を測る」という一見単純な手法を突き詰めることで、生命の誕生や進化といったスケールの大きい謎に迫れたり、さまざまな環境問題に広くアプローチできたりする点が魅力です。とりわけ40数億年も昔の試料の「年代を特定する」のはほかの方法では難しく、同位体を使った質量分析の最大の貢献だと言えるでしょう。実際の分析では、主にICP-MSという質量分析計を用いて、原子や分子をイオン化し、電場や磁場をかけて測定。試料がいつ、どのように生まれ、いかなる変化をたどってきたのかを解読しています。

研究のモチベーションは何ですか

尽きぬ好奇心と、社会への恩返し

 最大の原動力は、純粋な好奇心です。子どもの頃から科学が好きで、特に魅せられたのが地球の成り立ちや生物の起源の不思議。その答えを知りたい一心で研究の道に進みましたが、探究心は今も衰えず、むしろやればやるほど面白くなってきます。研究者になって20年もの月日が経っても、「分かった」「解決した」という境地にはたどり着いていませんし、既存の仮説を覆すような驚くべき発見もまだまだあり、気力も興味も尽きません。一方で、現在に至るまで研究活動を続けられたのは、多くの人々の支えがあったから。その恩返しも込めて、自分の知識や技術が環境問題や社会課題の解決に役立つなら、惜しみなく貢献したいと考えています。

大野教授の知の展望

謎多き地球誕生後の5億年を探る

 今後は、物的証拠が乏しく実態がよく分かっていない、「冥王代」と呼ばれる地球誕生後の5億年間に迫りたいと思っています。鍵となるのは、現状の質量分析計では測定できない、ごく小さな鉱物などが持つ情報。こうした微小な試料を測る手法を確立できれば、科学界全体でも大きなブレイクスルーになるはずです。簡単な道のりではありませんが、新たな分析法の開発も視野に入れながら、大きな可能性を秘めている質量分析を更に極めていきたいと思います。

PROFESSOR'S LIFE STORY

幼少期~高校 小さい頃からテレビの科学番組を観るのが好きだった。高校時代に科学雑誌『Newton』を読み、科学者になることを決意。
大学 東京工業大学理学部に入学。地球惑星科学科へ進み、化学や物理学、地質学のアプローチから地球の成り立ちや進化を学ぶ。
大学院 分析化学の研究室に所属し、質量分析を用いた研究を開始。岩石から過去の環境変動の様子を読み解く研究等に取り組む。
転機となった渡英 イギリス・ケンブリッジ大学の客員研究員に。合理的な研究の進め方やほかの研究者とのコミュニケーションの大切さを学ぶ。

※所属・肩書等は取材当時のものです。