

自然現象からビジネスまで 人の営みに深く根づく統計学の世界
2025.06.12
福地 純一郎 教授
Prof. FUKUCHI Junichiro
専門:統計学・データサイエンス
先生の研究内容を教えてください
利用目的に応じた多彩な手法・理論でデータを分析
統計学の各種手法・理論を研究しています。具体的には、極値統計学と母集団選択、リサンプリング法が研究対象です。一般には統計学と言えば平均的な値から、ある事象の傾向を読み解くようなイメージがあると思います。しかし、データの最大値やある閾値を超える大きな値だけを用いて得られる情報もあります。私の専門のひとつである極値統計学ではそのような手法を扱います。この手法は、標本の最大値の確率分布が極値分布という分布で近似されるという定理が基礎となっています。母集団選択は、複数の母集団から抽出したサンプル(標本)を用いて、特性値が最大の母集団を選択する方法です。例えば、もっとも効果的な薬を選んだりすることに用いることが可能です。リサンプリング法は、標本から再度、多数回サンプルを抽出することで、パラメータを含む変量の確率分布を精度よく近似し、母集団の特性値の精度の高い区間推定などにつながります。このように、統計学と一口に言っても、非常に多くの手法や理論があり、現在も新たな手法が次々と生まれています。
先生の研究は、実社会ではどのように活用されるのでしょうか
社会生活の随所に生きる統計学の叡智
例えば、極値統計学の知見は、天候予測などに活用できるでしょう。よく「観測史上最高の猛暑日」「今年度最大クラスの台風」といった言葉を耳にしますが、こうした悪天候時のデータを分析することで、あらかじめ災害リスクを減らせるはずです。低地の多い国では安全な堤防を築く技術に用いられる場合も。ほかには、株式投資のリスク管理など経済分野にも応用できます。
これまでの歩みを教えてください
経済学から統計学の世界に。
最先端の研究に刺激を受けた渡米経験
大学時代は経済学部に在籍。いろいろな分野を勉強しているうちに、数学を用いた手法が自分には向いていると信じるようになりました。数学には私たちが日常で使う言語と違い、誰が見ても正解・不正解を判断できる公平性がある。また、数学のひとつの知識が多くの応用分野の理解につながる道となります。そのうちに、だんだんと興味は経済学から統計学に移っていきました。大学・大学院時代は統計学や数学の素晴らしい先生方と出会い、充実した学びの日々を送りました。特に、アメリカで統計学を学んでいた際には「ここが世界の統計学の中心地か」と実感する場面が多くありました。大学や学会のセミナーで一流の専門家、最先端の研究から刺激を受けられる環境で研鑽を積むことができました。非常に幸運だったと思います。
近年力を入れている研究テーマは何ですか
既存の研究からもヒントを得て
新たな手法・理論の創出へ
現在は特に極値統計学と母集団選択法を組み合わせた研究に力を入れています。この研究では、単に母集団ごとの特徴を比較するのでなく、変数間の連関も加味した複雑なデータ分析が可能になります。例えば河川に10か所水位を計測する場所を設け、それぞれについて毎日データを取得するとします。この中で極値を分析することで、水位が非常に高くなる可能性のある複数地点を特定化し、リスク管理に役立てることなどに応用できます。
研究を通じて実現したいのは、新たな手法・理論を生み出すこと。誰もがこぞって研究するような分野でなく、未開拓の分野を拓いていけるような研究手法・理論を開発し、社会課題解決につなげていきたいと考えています。ただ、新たな研究というのは、ゼロから生み出されるものではありません。先行研究をベースに発展させていくパターンが多いのです。さまざまな手法・理論を比較検討し、よりよいものへと洗練させるのも、研究の醍醐味です。やるべきこと、やりたいことは尽きないですね。
福地教授の知の展望
現代で重要視される
データサイエンスに不可欠な、
統計学の研究を深めたい
従来日本の大学において統計学は、経済学、医学、工学などに応用される学部あるいは数学科で研究され、学問としての独立した扱いが弱い傾向にありました。しかし、近年、機械学習やデータサイエンスの重要性が謳われるようになり、統計学やプログラミングなどをより専門的に学べる機会が増えてきています。直近20年間で急速に見られるようになった社会の動きです。こうした時代のニーズに応えられる新たな統計学の手法・理論を生み出すべく、今後も研究に邁進します。
PROFESSOR'S LIFE STORY
大学時代 | 学習院大学文学部心理学科に入学、経済学部経済学科に転部転科。経済学、統計学を学ぶ。 |
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大学院時代 | 一橋大学大学院経済学研究科では刈屋武昭教授から、米国アイオワ州立大学(統計学)では、K.B.Athreya教授、S.N.Lahiri教授から学び、研究テーマを確立する。 |
研究者として | 広島大学を経て学習院大学へ。その間オーストラリア国立大学、ニューヨーク大学、東京大学などで客員として研究。豊富な研究リソースを活用し、教育・研究に励み、現在に至る。 |
※所属・肩書等は取材当時のものです。