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ブロックチェーン技術を活用し、企業会計や情報開示にデジタル変革を

2025.06.12

ガルシア クレマンス 教授

Prof. GARCIA Clemence

国際社会科学部 研究知

専門:会計学

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先生の研究内容を教えてください

数値化できない企業価値を
目に見える情報として発信する

 「企業情報」と言われるものには、売上高や利益といった財務情報と、それ以外の非財務情報の2種類があります。非財務情報には、特許や商標権、社員が持つスキルやアイデアなど、形を持たない無形資産を含みます。日本企業はイノベーションや研究開発にたくさん投資している一方で、無形資産に対する投資が開示されておらず、会計上見えない非財務情報の多さが問題視されてきました。私は来日当初から日本企業の無形資産の会計処理を研究していましたが、研究を始めてから数年間で、日本で上場企業に対する非財務情報の開示が義務化。企業の経営戦略やサステナビリティへの取り組みといった数値で表せない情報開示の必要性は、近年ますます高まっています。そうした企業の「ブランド価値」を自動計算するシステムを組み込んだアプリを開発し、そのアプリで作成できる情報を拡大させるような研究をしています。

近年力を入れている研究テーマは何ですか

ブロックチェーン技術によって
企業の情報開示の自動化に挑む

 近年新たに始めた研究に、ブロックチェーンを活用した情報開示システムの開発があります。具体的には、投資家など企業情報を必要とする人がブロックチェーンに預けられたデータにアプリによってアクセスし、自分でカスタマイズできる報告書を作るようにするというものです。ブロックチェーンは情報を暗号化しているため情報漏洩のリスクがなく、慎重に扱う必要のあるデータの預け先としてとても優れています。従来の財務報告では、企業が内部で集計した情報を定期的に投資家のために開示するという手法が取られてきました。しかし、ブロックチェーンを活用した情報開示が進めば、企業からの不正の懸念が少なく信頼性の高い情報をいつでも入手できるようになりますし、企業も、手間とコストをかけずに有益な情報を発信することができます。そうした、双方にとっての利便性を追求した新しいシステムを作り出すことが直近の目標です。

※仮想通貨(暗号資産)による取引を実現するために開発された技術。ブロックと呼ばれる単位で管理されるデータを1本の鎖のように連結して保管する、新しいデータベースの一種。  

ブロックチェーンに着目したきっかけを教えてください

北欧諸国の取り組みが転機に
国家レベルのデジタル化にも貢献

 私が大学院で研究していたころ、会計学者の間では「ブロックチェーンはコストが高く企業会計には向いていない」というのがほとんどの見解でした。しかし、しばらくしてから北欧諸国において、デジタル・ガバメントという行政のデジタル化を進める国家プロジェクトが始動したのです。まさかと思い、そのときにブロックチェーン技術の有用性を見直しました。そして3年前、企業情報の電子報告についての研究団体に誘われたことをきっかけに、本格的に研究をスタートさせました。スウェーデンの研究者とも研究を進めており、今後スウェーデン政府に対してブロックチェーンを使った税申告自動化システムの実験を行う予定です。税金が自動計算されるシステムができれば、企業の税申告の手間が減るだけでなく、政府も企業の脱税を防ぐことができます。

研究するうえで大切にしていることは何ですか

自分の考えを整理し深めるために
別分野の意見を取り入れる

 自分と異なる分野の研究者と交流する時間を大切にしています。ブロックチェーンの研究は、本質的には会計分野ではなく工学分野に属するため、当然技術的な側面も大きいです。そこで会計学以外の知識をインプットしたり、異分野の研究者と意見交換したりする中で自分の知識の深まりを感じられるのはとても楽しいですし、新たな視点を取り入れることは自分の考えをリフレッシュすることにもつながります。共同研究以外でも日本ブロックチェーン協会の活動に参加したり、欧州法律協会の企業持続性に関するプロジェクトに参画したりするなど、積極的に専門外の学問に触れる機会を設けるようにしています。

ガルシア教授の知の展望

会計学者として、日本と世界に
ブロックチェーンの有用性を発信する

 あらゆる手続きのオンライン化が進む今日、ブロックチェーンに関する研究は重要性を増す一方です。しかし国際的に見たとき、日本は技術面では最先端ですが、会計分野から研究している人はごくわずか。また、今は暗号資産の処理に2001年にできた古い国際会計基準を使っているため、その基準も抜本的に見直さなければいけません。そうした状況をチャンスと捉え、自身の研究成果や知見をもっと発信していきたいと思っています。ゆくゆくは、日本の経済環境に適した情報開示システムの開発も進めていきたいです。

PROFESSOR'S LIFE STORY

幼少期 兄が習い始めた剣道に影響され、日本に興味を持つ。自身も10歳のころから剣道を始め、ヨーロッパチャンピオンになった実績も。
公認会計士試験に合格 家族の勧めもあり、フランスの大学では会計学を勉強。修士課程のときに公認会計士試験を受け、見事合格。
日本留学 日本語が話せたことから、当時の教授から日本の会計を研究するようアドバイスを受ける。博士課程のときに日本の大学院に留学。
研究の道へ 博士課程修了後、フランスの公認会計士ではなく、日本で研究者となることを決意。代々大学教員が多い家系に育った影響があったかもしれない。

※所属・肩書等は取材当時のものです。