重力から解放された宇宙空間で知られざる物性を解明する
2024.02.26
渡邉 匡人 教授
prof. WATANABE Masahito
専門:結晶物理工学
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より高性能な素材の創造を目指して
鉄を精錬する際には、まず鉄鉱石を溶かし、鉄とスラグと呼ばれる酸化物を分離します。分離した鉄に再びスラグを入れると、今度は鉄の中に残った酸化物をスラグが吸収してくれ、純度の高い鉄を作れます。しかし、その際に、鉄の中にスラグが取り残されないようにしないといけません。鉄とスラグを上手に分けるためには、両者の境界で界面張力がどのように働いているか調べる必要があります。これを調べるには鉄が溶けるほどの高温が必要ですから、容器に入れた状態で測定することができません。そこで私は電磁気力や静電気力を使って、試料を宙に浮かせた状態で安定させ、その物性を計測する無容器浮遊法という実験方法の開発に取り組んできました。
国際宇宙ステーションで世界初の実験に挑む
無容器浮遊法で、鉄とスラグが二層になった真球の液滴を宙に浮かせれば、高い精度で界面張力を測定できるはずです。しかし実際は、地球上では重力によって重いものが下に偏り、「二層の真球(=二重液滴)」は作れません。そこで現在、国際宇宙ステーション(ISS)の微小重力環境下で無容器浮遊法を用い、二重液滴による界面張力を測定するという前人未踏の実験に挑戦しています。最近、この界面張力計測実験に成功し、次の段階に実験を進めようとしています。この研究を発展させることで、より高性能な鉄鋼の製造が可能になるだけでなく、現在検討が進んでいる月の資源を利用した月面での材料製造を可能にし、月を拠点に火星などのほかの星、更に遠い宇宙へ進出することもできるようになるのではないかと期待しています。文理融合科目「宇宙利用論」で、私たちと一緒に未来の宇宙利用を考えていきましょう。
PROFESSOR'S LIFE STORY
高校 | 日本の半導体産業が大きく成長していた時代。研究者として半導体に携わりたいと思っていた。 |
大学 | 半導体の研究をすべく学習院大学の物理学科に進学。半導体の素材となる結晶の研究開発に取り組む。 |
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就職 | 日本電気株式会社(NEC)に就職して半導体の開発に従事。宇宙開発事業部の研究に携わったことで宇宙利用にかかわりを持つ。 |
研究室 | 学習院大学理学部教授として国際宇宙ステーションを使った微小重力環境を使った界面張力の実験に取り組む。 |
※所属・肩書等は取材当時のものです。