
社会の潜在的傾向をデータから読み解く。計量政治学が可視化する社会の変化
2026.06.17
三輪 洋文 教授
Prof. MIWA Hirofumi
専門:人文・社会/政治学
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先生の研究内容を教えてください
「見えない声」を可視化する
政治学の新たなアプローチ
世論や有権者の政治行動などについて研究してきました。例えば、世論調査のデータを使って、週単位で内閣・政党等の「真の支持率」を推定する研究があります。報道各社が発表する個々の支持率は、目に見える観測値にすぎません。背景には潜在的な「真の支持率」があり、それが誤差を伴って報道各社の世論調査で観測されるというメカニズムがあると考え、統計モデルを用いた動向の分析を行っています。
また、そのデータを用いて、北朝鮮によるミサイル発射や海外でのテロ事件が支持率にどのような影響を与えるか、あるいは内閣支持率と死刑執行のタイミングに関係があるかなど、多岐にわたるテーマを分析してきました。研究対象は主に日本ですが、ほかの研究者と協力して外国のデータを扱うこともあります。
近年力を入れている研究テーマは何ですか
データの向こうに見えてくる
裁判官の政治的立場
最高裁裁判官のイデオロギー位置を推定する研究でしょうか。イデオロギーも支持率と同様に、直接目に見えないものの政治を説明するうえで重要な概念のひとつです。最高裁が出す判決や決定には、「法廷意見」と共に裁判官が独自に書く「個別意見」が付されることがあります。この「どの判決に誰がどの意見を書いたか」という行動データに着目し、「裁判官は自分の政治的立場に近い法廷意見には賛成し、遠い法廷意見には反対するはずだ」という仮定をもとに統計モデルで分析することで、個々の裁判官のイデオロギー位置を可視化できるようになります。
このような研究から、裁判官出身者の中でも最高裁長官になるような人は特に保守的であるなど、新たな事実も明らかになりました。
研究の面白さや醍醐味を教えてください
データから「見えないもの」を
解き明かす面白さ
研究の面白さは、やはり「目に見えるデータから目に見えないものを解き明かす」ことに尽きます。従来、主観的に評価・測定されてきた概念を客観的なデータから抽出する作業は、非常にやりがいがあります。日本ではまだこうした計量的アプローチをとる研究者が少ないため、ほかの研究者からの協力依頼も多いです。分業を大切にし、得意分野であるデータ分析や論文執筆に集中することで、多くの研究に貢献できることもやりがいにつながっています。

研究するうえで大切にしていることは何ですか
堅実さと透明性を重視する
研究者としての姿勢
主にふたつあり、ひとつは「堅実さ」です。研究は、たった1本の論文で世の中の真実を語り尽くせるものではありません。多くの研究者による後続研究の積み重ねによって、初めて確かな知識となるのです。だからこそ、安易に注目を集めるような研究はせず、一歩ずつ堅実に、そして科学的に研究を進めていきたいと考えています。
もうひとつは「透明性」です。例えば、国際的に標準となっている論文の再現用データやプログラムコードの公開に早期から取り組み、公刊したほとんどの論文で実践してきました。これは、ほかの研究者が私の研究を検証・発展させ、学問の信頼性を高めるための大切な取り組みです。また、日本の政治学にとって重要でありながら、今まで誰も収集してこなかったデータ(例:政治家・政党・マスメディアなどのイデオロギー位置を示すデータや報道機関の世論調査結果など)を、外部に公開することも重要視しています。
三輪教授の知の展望
計量的アプローチで
政界に研究成果を発信!
日本の政治学の分野は、海外と比較してまだまだ計量的アプローチや英語での発信が盛んではないように感じます。日本の研究者で、そうした取り組みを積極的に行ってくれる人材が増えていけばうれしいですね。また、政治学の研究対象には選挙行動や世論など、社会情勢に左右されるものが少なくありません。そのため、時代の変化にあわせて、刷新していかなければならない分野だと言えます。常に新たなテーマに挑戦できる点は非常に魅力的だと感じており、今後も飽くことなく研究に取り組み続けます。
PROFESSOR'S LIFE STORY
| 大学時代 | 中学生の頃から政治ニュースに興味を持ち始め、大学では法学と政治学を学ぶ。在学中は官僚を目指し、公務員試験の勉強に取り組む。 |
|---|---|
| 大学院時代 | 公務員志望であったが、最終的に研究者の道を選び大学院への進学を決める。もともと得意であった計量的アプローチと興味のあった政治学とを結びつけて、独自性のある研究に取り組んだ。 |
| 研究者として | 他分野の研究者とともに30以上ものプロジェクト・論文執筆に携わる。今後は協働も大切にしつつ、自身の研究テーマをより深化させる方向に舵を切っていきたいと考えている。 |
※所属・肩書等は取材当時のものです。