資料
請求

経済と文学.png
白田_小原先生.png

【対談】AI時代の創造力-現代社会に求められる "数学的思考力" の重要性-

2026.06.17

白田 由香利 教授/小原 豊 教授

Prof. SHIROTA Yukari/OHARA Yutaka

経済学部 文学部 研究知

専門:AIによる企業分析/数学教育学

DIGEST MOVIE

Professor Fileをダイジェスト動画で紹介!

生成AIを活用した教育方法を模索

小原:私は数学教育と情報科学について教員養成の視点から研究しています。近年は、教育用ドローンや視線の動きを追跡するアイトラッカーなど、ICT機器を用いた先進的な教育方法の研究に取り組んでいます。その流れで、生成AIの活用法も探っています。

白田:私は経営数学を専門としており、生成AIによるグラフィックスを豊富に使ったわかりやすい教材の作成に取り組んでいます。そのためにまずAIに経営数学を教えているのですが、AIでもなかなか問題が解けません。そこで、自ら考案した「演繹推論法」という手法を使い、AIの計算の誤りを明確にすることで正しい回答に導いています。生成AIに上手く教えることができれば、同じ手法を学生の教育にも活かせるのです。

小原:私も生成AIに数学の問題を解かせていますが、やはり簡単な問題でも間違えてしまうことが多い印象です。生成AIは自身で推論して定理などを導くのではなく、ネット上の情報を探して組み立てているため、数学の世界では自明すぎてインターネット上に書かれない情報が反映されないからです。

白田:私は根っからの数学教師なので、人間の学生でも生成AIでも、間違いを直して正しい答えに導くことに大きな喜びを感じています。ただ、人間に教育するときは、その人の特性を見てどうすれば伸びるのか深く考えながら指導する必要があります。それができるのが、同じ人間である数学教師の強みだと思います。

小原:全く同感です。私は、『生成AIと創る未来の教育』という書籍で「AIは教師に成り代わり得るのか」というテーマを論じたことがあるのですが、現段階では難しいという結論を出しました。白田先生がおっしゃるように相手の成長を促すために難度や観点を調整する教え方ができませんし、あえて聞かれたことを答えずに質問を返して熟考を期すといった弁証的な振る舞いがまだできないからです。

人間だからこそできる思考

白田:教える側だけでなく、学ぶ側である学生の生成AIとの付き合い方も大きな課題になっていますね。

小原:私は、教師も学生も生成AIを積極的に使うべきだと考えています。フランスの哲学者ベルクソンは、道具を作り、使うことで進歩してきた人類のことを「ホモ・ファーベル(工作する人)」と呼びました。人類は新しい道具が出てきたら、それ以前の時代には戻れないのです。電卓が世の中に普及したとき、一部の教育者は「皆が電卓を使うようになると、電卓を作れるような能力を持った人が育たなくなる」と否定的でした。しかし実際には、電卓により計算が楽になったことで、計算自体に労力を費やすのではなく、計算原理を考える思考力が重視されるようになりました。同様に、生成AIの登場により、回答を出すこと自体よりも、そのプロセスを追求する意味や価値が重視されるようになると考えています。

白田:生成AIはあくまでもツールであり、それを使って何をしたいかということがやはり重要です。そのパッションを持ちながら、人生で実現したい夢のために教育を受け、スキルを高め、ツールとして生成AIを活用する。教育を享受するにもAIを活用するにも、本当に意義のあるものにするには、最初のパッションこそが大切なのです。

小原:生成AIは聞いたことしか答えてくれません。深く知りたいことがあれば、何度も対話を繰り返す必要がありますし、プロンプトも工夫しなければなりません。問いを持続させるには、やはり根底にパッションが必要ですね。近年、「ワークスロップ」という概念が出てきました。見せかけの雑な仕事といった意味の概念ですが、生成AIがアウトプットした中身の乏しい成果物がむしろ仕事の生産性を低下させているというのです。生成AIが寄せ集めた、ありきたりのデータで満足するのではなく、知的好奇心に基づいたよい問いを立てられる学生を育てていきたいですね。

白田:それには、生成AIからは得られない身体感覚も大切ですよね。自然と触れ合うなど、身体を通した体験が新しいアイデアに結びつくこともあります。しかしながら、生成AIはそれをサポートすることはできません。

数学的思考を武器に新たな世界を切り拓く

小原:プログラミング言語を書けない学生たちも、生成AIがあれば簡単なアプリを自作できます。しかし、そのほとんどは"クラフト"ではあっても新規性のある"クリエイト"ではありません。新しいものを生み出すには批判的思考が必要なのです。数学の世界では「先生が言ったから正しい」、「教科書に書いているから正しい」といった、正しさの根拠を既存の権威に求める思考を戒めています。何が正しいかを自分自身で判断できることが数学の美徳のひとつです。生成AIが示した事実を批判的に解釈し、"クリエイト"に結びつけることこそが数学的思考の強みだと思います。

白田:私は生成AIの誤りを正しながら生成AIに経営数学を教えていますが、それができるのは、批判的思考・数学的思考ができるからです。しかし、教え続けていると、生成AIがどんどん賢くなっていくのを実感します。今はまだ私が教える立場にいますが、近い将来、生成AIが自ら新しい数学公式を発見できるようになるのではないかと期待しています。

小原:人間の持つ"クリエイト"の感覚さえも、いずれは生成AIの学習対象になるでしょう。そうすると、「生成AIと人間が創造を競う」という問いも意味をなさなくなると思います。未来の社会では、人間が生成AIと共に発想を拡げる「共創」が主流になるのではないでしょうか。

PROFESSOR'S LIFE STORY

白田教授
高校 高校1年生のころからコンピュータに興味を持ちはじめる。計算機を扱うことができると考え、学習院大学理学部物理学科に進学。
大学 マイコン(小型コンピュータ)作りに没頭し、秋葉原に通い詰める。当時から「コンピュータを使って新しい世界を切り拓く」ことを目指していた。
大学院  最新機器を使って情報科学の研究に取り組む。教室内のAV機器や照明、カーテンの開閉の制御システムを構築し、アメリカSIGGRAPH Computer Graphics1985で発表する。
研究者の道へ     博士号取得後、企業の研究所などに勤務し、学習院大学経済学部に着任。経営数学やAIを用いた企業分析を専門とする。
小原教授
高校 高校時代から数学が好きで、人間の成長にも関心があり、「数学×人間」の視点で学べる数学教育学を専攻。
大学 学生時代は数学科の教員を目指していたが、数学の学び方自体を研究したいと思い、大学院に進学して数学教育の道へ進む。
大学院  描画ソフトなどを使って数学を探究。複数人で情報共有しながら活動ができるグループウェアが登場したことで、数学授業の大変革を予感。
研究者の道へ    勤務した大学で、情報系の授業を担当。その流れで数学教育や教員養成にICTを積極的に活用する研究に着手する。

※所属・肩書等は取材当時のものです。