
縄文時代の出土遺物の年代を測定し、歴史を明らかにする
2026.06.17
工藤 雄一郎 教授
Prof. KUDO Yuichiro
専門:先史学、植物考古学、環境考古学
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先生の研究内容を教えてください
年代測定を活用して
土器や外来植物のルーツを探る
私は考古学を専門としており、主に縄文時代の遺跡の発掘調査を行って当時の生活文化を明らかにするとともに、放射性炭素年代測定という手法を活用して、出土資料の正確な年代を調べることを研究の中心としています。特に、日本最古の土器はいつ出現したのか、当時はどのような気候条件下で土器が使用されていたのかといった謎を明らかにし、「土器出現の歴史的意義」を問い直すことを目標にしています。また、縄文時代の遺跡から出土したウルシ(漆)やヒョウタンといった有用な外来植物を年代測定することにより、日本に渡来した時期やその背景を明らかにする研究にも取り組んでいます。
先生の研究手法の特徴を教えてください
理化学分野で使われる
技術を駆使して研究に取り組む
主に物理学や地球科学といった理化学系の分野で開発された放射性炭素年代測定は、考古学でも活用されていますが、考古学者自らが分析の操作そのものを行うことはほとんどありません。しかし、私は学際的な視点からその手法を研究に導入し、分析試料の採取、化学処理、測定結果の解析を自ら行うことにより、遺跡出土遺物の正確な年代を割り出そうと試みています。測定に使う試料も自分で作成するため、測定点数を増やし、効率よく高い精度で年代が決定できることもメリットです。低湿地遺跡に着目している点も私の研究の独自性のひとつです。低湿地遺跡は、遺跡が水に浸かった低酸素状態で埋没しているため、数千年前の遺跡でも植物が腐らずに残っているのが特徴です。そこからは、美しい赤色漆塗りの製品(容器や装身具類)や、クリやトチノキ、マメ類といった当時の食料の残滓が出土します。それらを分析することで、当時の人々の工芸技術や美意識、食生活の変遷、外来植物の渡来時期などを明らかにできます。
近年の主な研究成果を教えてください
年月を超えて歴史を伝える
さまざまな出土遺物
アフリカ原産の植物であるヒョウタンは、縄文時代から液体を入れる器として使われてきました。福井県鳥浜貝塚からは、日本最古とされるヒョウタンが発掘されましたが、その年代を測定した結果、1万年前にはすでに日本に渡って来ていたことがわかり、ホモ・サピエンスの拡散とともにヒョウタンは移動していた可能性が高まりました。2023年度からは、福島県猪苗代町の桜川遺跡(縄文時代、約6,000年前)で他大学も含めた学生も参加する形で発掘調査を開始し、当時の集落の様相を解明するとともに、出土した土器に付着した炭化物の年代測定を行っています。また、遺跡周辺の堆積物から花粉等を採取して当時の気候環境を復元することで、人と環境との関係史を明らかにすることを目指しています。さらに、これまでに日本全国の遺跡発掘調査の際に行われた4万件を超える放射性炭素年代測定の結果をまとめ、国際的なデータベースとして公開する活動も続けています。
先生の研究の意義について教えてください
人類が培った知の遺産を
現代社会に活かす
正確な年代に基づいて歴史や文化の流れを理解することは重要です。弥生時代に水田稲作が広がるのには実は数百年かかっていたり、日本列島で土器が出現したのが寒冷な氷期の真っ只中であったり、約7,500年前から7,000年前にかけて日本列島で漆文化が急速に拡散したことが明らかになったりするなど、年代研究の進展によって歴史観が大きく変わってきています。考古学を通して人類がどういう歴史を歩んできたかを知ることができます。先史時代の人々というと縁遠い存在と思いがちですが、彼らが長い時間をかけて達成してきた知の遺産の上に現代社会が成り立っています。考古学を含めた人文学は「人とはなにか」をより深く理解するための学問であり、先史時代の歴史を理解することは「人と人とのコミュニケーション」を掘り下げるために欠かせない分野であると考えています。また、過去の気候変動を人々がどう生き抜いてきたかを明らかにすることで、我々が現代社会を生きていくうえでのヒントを得られるかもしれません。

工藤教授の知の展望
他分野の研究者と連携し
水月湖の年縞の研究に取り組む
考古学は総合的な学問分野であり、他分野と連携した学際的な研究を行っていくことが必要不可欠です。近年は古環境の研究者と共同で、福井県にある水月湖の年縞の研究をスタートしました。年縞とは、湖底に堆積した土の層が1年毎の縞状となる特殊な堆積層のことで、水月湖には7万年分もの年縞が保存されており、それを読み解くことで過去のさまざまな気候変動を年単位という極めて高い解像度で知ることができます。それを遺跡調査の成果や考古学的資料の年代と対比することで、先史時代における人と環境との関係史に関する新たな研究成果を生み出したいと考えています。
PROFESSOR'S LIFE STORY
| 大学時代 | 3年次に日本最古の縄文土器が出土した大平山元Ⅰ遺跡の発掘調査に参加し、考古学の面白さと重要性を実感。 |
|---|---|
| 大学院時代 | 縄文時代の人々の暮らしに関心を持ち、低湿地遺跡から出土する植物とその利用の文化史に着目。その時の研究が現在につながっている。 |
| 転機となった出会い | 調査員をしていた遺跡に訪れた国立歴史民俗博物館の研究チームに熱意を買われ、年代測定実験室の使用を許可される。そこから2年間、試料測定に明け暮れる。 |
| 研究者として | 放射性炭素年代測定の手法を駆使して、多数の遺跡出土資料を分析。発掘調査を通して学生に考古学の面白さを伝えている。 |
※所属・肩書等は取材当時のものです。