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哲学科|パズルを解くような面白さがある『三教秘録』の訳読

2020.06.05

文学部 ゼミ紹介

松波 直弘 教授、哲学科3年

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STUDENT'S VOICE

パズルを解くような面白さがある『三教秘録』の訳読

T.Sさん

茨城県・県立下妻第一高等学校 出身

松波直弘先生の「比較文化論演習」では、道教の考え方などについて書かれた『三教秘録』をテキストにしています。ゼミ生は『三教秘録』に書かれた崩し字や漢文を書き下し、現代訳にして自分の解釈を発表。その後全員で議論を行います。崩し字を読む際に「を」だと思っていた字が実は「す」であるなど最初は悪戦苦闘していましたが、パズルを解くような面白さがあり、次第にスムーズに読めるようになりました。松波先生は、「学生が自分で考える」ということをとても大切にされています。そのため、学生が自ら考え抜いたことならば、その結論に多少の間違いがあってもその過程を評価してくださり、次につなげようという意欲が湧き上がります!

ABOUT SEMINAR

マジメな風習が宴会へ?道教に基づく民間行事「庚申待ち」とは

江戸時代の書物をテキストに「四」教の考え方などを学ぶ

本演習では、1801年(享和元年)に出版された『三教秘録』(大江文坡)をテキストに、中国伝来の道教を中心としながら仏教、神道、儒教の3宗教の立場や考え方を学びます。そのなかに、あまりメジャーではない道教が、日常の行事に多く入り込んでいることに注目していきます。

例えば庚申塚という石碑。日本各地に建立されているので、気づかずに目にしている人もいるかもしれません。実はこの庚申塚、懇親会の会場のようなもので、「庚申待ち」という道教に基づく庚申信仰の民間行事が行われる場所でした。庚申待ちとは、人の体内にいるとされる三尸虫という虫が、庚申の日、寝ている間にその人の悪事を神様に知らせるのを防ぐために夜通し起きていた風習です。まじめに神を祀るものが、慣れと共に過ごし方が変化し、飲めや歌えやの大宴会になっていったようです。これら『三教秘録』に書かれた興味深い内容を、学生各自が翻訳(現代通用の文字におこす)し、レジュメを作成して発表します。そしてその発表を通して、テキスト講読を進めていきます。

知らなかったことに気づき、固定概念を打破してほしい

この庚申の「申」は干支の猿のことです。日本で日常的に使っている干支や二十四節気など、暦に関するもののほとんどが道教から伝播したもので、我々の暮らしに道教が浸透していることがわかります。

また、原文に書かれたひらがなの崩し字を読めるようになることも、学問の到達目標にしています。日常的に使っているひらがなや干支ですが、それを当たり前のものではないと感じてほしいためです。例えば、ひらがなの「あ」は現在のルールでひとつに定められていますが、本来「安」「阿」「悪」など様々な漢字が用いられていました。身近なはずの日本語でさえ、見落としていることがたくさんあるのです。

学生には、知らなかったことや考えたことがなかったものに気づき、自身で調べて固定概念を打破することで、柔軟な発想へとつなげていってほしいと思います。

松波 直弘 教授

学習院大学大学院人文科学研究科哲学専攻博士後期課程修了。学習院大学文学部哲学科非常勤講師、助教を経て2013年より現職。専門:日本思想史。

※所属、肩書等は取材当時のものです。