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フランス語圏文化学科|『アドルフ』を通じて、人物の心理を深く考えられるように

2020.06.05

文学部 ゼミ紹介

鈴木 雅生 教授、フランス語圏文化学科3年

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STUDENT'S VOICE

『アドルフ』を通じて、人物の心理を深く考えられるように

T.Tさん

神奈川県・県立港北高等学校 出身

フランス文学を通じて男性心理を学ぶ、という点に興味をひかれ、基礎演習でもお世話になった鈴木雅生先生のゼミに入りました。鈴木先生のゼミでは、今年度『アドルフ』というフランスの心理小説をテクストに、フランス語から日本語に翻訳しながら内容を読み解き、考察・分析して各自発表しています。同じ箇所を読んでいても人によって感じることや考えることが異なるため、ほかのゼミ生の発表をいつも興味深く聞いています。ゼミで学ぶうちに、フランス小説以外の小説を読んでいるときも、登場人物の心理について深く考えるようになり、恋愛心理を客観的に捉える力がついたと感じます。同時に、フランス語圏の文化や考え方についての理解も深まりました。

ABOUT SEMINAR

「好き」だけでは表現できない想いを、言葉で描く文学

心理の変化に焦点があてられた小説

成就した恋愛がどのように冷めていくのか、そんな恋愛心理を描いたのが、19世紀初頭のフランスで出版された心理小説『アドルフ』(コンスタン作)です。一般的な小説はストーリーの変化が中心ですが、心理小説は心理の変化に焦点があてられ、アクションではなく内面描写が中心となります。『アドルフ』は、特に恋愛心理を分析したもので、20代初めの若い青年が、年上の人妻に言い寄って恋人になるものの、だんだん重荷になって別れたくなっていく心の動きが描かれています。

アドルフの心情を表現する手法として、色々な場面で手紙が使われます。学生によれば、今ならLINEなどで一言「好き」「嫌い」と伝えるものを、手紙に延々としたためてやりとりするのは「オモイ」とのこと。しかし、誰かを好きという気持ちは本当に一言で表現できますか? 100人いれば100通りの「好き」があるはずです。

文学では、こうした一般化できない個人的な部分を言葉でどう描くかが作者の腕の見せどころです。また、読者の立場からすれば、自分では気づかなかった人間心理の微妙なひだを発見する機会となります。

新たな思考を手に入れると、世界の見方が立体的になる

ゼミではフランス語の文学作品を取り上げ、担当箇所を正確に訳すとともに、自分なりに分析してもらいます。2019年度は『アドルフ』で、過去にはカミュの『追放と王国』などを扱いました。地理的、文化的差異に戸惑う学生もいますが、そのなかに息づく登場人物の心理は、私たちとさほど遠くはありません。文学は「生や死、愛とは何か」といった正解のない問いに対して、過去の人たちがどのように取り組んできたか、その歴史でもあり、自分自身のありようを考えるための指針になります。

さらに、これまで触れてきた日本語圏や英語圏の文化的枠組みによる思考以外に、フランス語圏という別の枠組みによる思考を手に入れることで、世界の見方がさらに立体的かつ多面的になります。それは、世間の「当たり前」に流されず、自分の頭で考え、判断する力となるでしょう。

鈴木 雅生 教授

東京大学大学院人文社会系研究科、パリ第4大学博士課程修了。東京大学大学院助教、共立女子大学文芸学部専任講師等を経て、2011年に学習院大学に着任。専門分野:近現代フランス文学。

※所属・肩書等は取材当時のものです。